小 野 義 隆

 

 

 

 

 

学習と仕事のあしどり

 

 

 

 

 

 

東京の高校を卒業した後、信州大学農学部園芸農学科に入学しました。
大学教育を含めた教育や社会のあり方、もっと根源的な人間の生き方などについて厳しい意見の対立のあった時代背景のなかで、大学では授業はあまりなされず、独習をしました。
中学校や高校、大学教養部を通じて最悪の成績をとっていた英語、その読解力が飛躍的に向上したのは、この独習の成果でした。
野菜の栽培方法や果樹の栽培方法、植物の病気の勉強にも励みました。
卒業して農学士の称号(現在は学位)をもらいました。

 

大学卒業後すぐに就職をするのがいやだったので、自宅から通える東京教育大学大学院農学研究科に入学しました。
ここで、ライフワークとなった植物に寄生するサビキン(さび病菌)の研究を始めました。
ここを修了して農学修士の学位をもらいました。

 

東京教育大学大学院に入学した年に、「腕試し」として、東京都の教員採用試験を受験してみました。
思いもよらず合格をしてしまい、大学院2年目は、東京都立豊島高等学校(定時制)に教諭として勤務しました。、

 

都立高等学校の教諭という職業に何も不満はありませんでした。
けらども、サビキン(さび病菌)の研究に励みたくて、アメリカ合衆国インディアナ州にあるパデュウ大学大学院に進学しました。
この大学にあるアーサー標本庫は、サビキン(さび病菌)の研究の国際的な中心地となっていました。
すばらしい自然環境と学習環境に囲まれて、思う存分生きることのできた3年間でした。
この大学院で植物学と植物病理学の勉強をして、Ph.D.の学位をもらいました。

 

帰国して1年間浪人した後、茨城大学教育学部に職を得ることができました。
技術科の農業の担当を経て理科の生物の担当となり、現在は、大学院教育学研究科(修士課程)と理工学研究科(博士後期課程)の担当もしています。

 

教育について

 

生物自然史(生物の進化と多様性など)を研究したいと考えている人、学校教育の場で自然科学を教えたいと考えている人、自然科学の成果を社会に広める職業に携わろうと考えている人、あるいは自然科学の学習成果をもとに多様な専門的職業に就きたいと考えている人、そのような人たちが、それぞれの目標に到達するために必要とする自然科学・生物学の基礎知識と技能を獲得できるようにしたいと、私は考えて授業を行っています。

主に植物と微生物を題材とした講義・演習・実験・実習を担当していますが、自然の中での植物・動物・微生物の生き様を実際に知ることが何よりも大切なことであると考えていますので、授業の中でも、課外学習としても、野外に出ることがしばしばあります。


優しくもあり恐ろしくもある壮大な自然に驚嘆し、私たちの想像を超える奇妙でもあり美しくもある生物の形とその生き物たちの工夫を凝らした生活に感動を覚えることが、何よりも大事なことと考えています。

 

 

担当している授業

 

 

 

 

 

学部

大学院教育学研究科修士課程

大学院理工学研究科博士後期課程

初等理科内容研究(分担)
基礎生物学
生物学実験(分担)
生物学野外実習(分担)
植物学
植物分類学
植物学演習
生物学実験指導法(分担)
総合演習(分担)
卒業研究

系統分類学特論
系統分類学演習
自然科学総合研究(分担)
特別課題研究

真菌系統分類学特論
特別演習
特別研究

 

 

 

 

研究について

 

 

私は、植物に寄生する真菌(カビやキノコの仲間)のうち特にサビキンと呼ばれる真菌の生活の仕方を研究しています。

野山を歩き回り、植物を探し、その植物に寄生しているサビキンを探します。ですから、右の写真のように、ヒマラヤに行ったりしたりもします。この撮影場所はナンガパルバット南面の標高4000mの地点です。

巨大なカールから氷河が流れ出ている様子が背景に見られます。私たちは、モレーンの上にいます。

左から2人目が、これを書いている小野です。

研究室に戻って、顕微鏡で寄生しているサビキンの胞子(繁殖するための細胞)を観察します。

寄生する植物の種類と胞子の形の特徴から、サビキンの種類を見分けます。

もし、今までに知られていない植物に寄生していて、今までに知られていなかった形の特徴が見つけられた時には、そのサビキンを新種として学会に報告します。

左の写真は、アカシアに寄生するサビキンの胞子を走査型電子顕微鏡で観察したものです。

研究室では、寄生していると思われるサビキンを単離(目的とする菌以外がいないようにすること)します。その菌を、健全な植物に接種(人工的に寄生しやすくすること)して、その菌が本当に寄生できるのかを確かめたりもします。

右の写真は、ウメに寄生するサビキンがヤマカシュウという植物にも寄生することを証明するために、ウメの上で作られた胞子をヤマカシュウに接種した結果です。みごとにヤマカシュウにも寄生し、オレンジ色の胞子をたくさん作っています。

日本でも100年以上ものブドウ栽培の歴史があります。栽培ブドウの恐ろしい病気の1種にさび病があり、やはり100年以上もの間、ブドウ栽培者を悩ませてきました。ところが、このブドウさび病菌(サビキン)の正体と生き方については、解らないことだらけでした。正式な名前(学名)すらついていませんでした。

常陸太田で採取した材料をもとに研究をして、ブドウさび病菌がアワブキという植物にも寄生することを明らかにして、新種 Phakopsora euvitis Y. Ono と命名し、公表しました。左が巨峰の葉で、右がサビキンの胞子です。

科学研究は、すでに確立している成果(事実関係の知識や事実関係を説明する理論など)にもとづいて、進展してゆきます。ですから、科学の基礎知識・技能を、学校や家庭、社会で学習することが重要な意味を持つのです。

しかし科学を学ぶときには、批判的に学ぶという態度が必要です。教科書などで獲得した知識が絶対的なものではなくて、常に新しい事実によって修正される可能性があるということ理解しておくことが必要です。すでに学んだ事実関係の知識や事実関係を説明する理論などに、どこか矛盾がないかつぶさに検討ことも必要です。

「ヤシという植物にはサビキンは寄生しないものだ」という「事実」を確信していたら、世界で最初のヤシに寄生するサビキンを発見できなかったでしょう。その最初のサビキンをブラジルで発見しました。非常に珍しい形をしていて、新属・新種 Cerradoa palmaea Hennen & Y. Ono として、学会に発表しました。左がヤシの葉で、右がサビキンの胞子です。

植物の病気とくにさび病とその病原菌であるサビキンが、私の興味・関心の中心にあります。

しかし、野生植物にも強い関心があります。厳しい環境の中で生きている、しかも厳しさに疲弊しながら生きているのではなく、はつらつとそして美しく生きているその姿に感銘を受けます。


アプローチに5時間以上もかかって到達した羅臼岳の頂上直下で、エゾノツガザクラ(ピンクのベル形の花)、アオノツガザクラ(黄緑色のベル形の花)とチングルマ(白い花弁と中央部に黄色いおしべを持った花)の群落の出会いました。しばし立ち尽くして眺めていました。

エゾノツガザクラ:ピンクのベル形の花
アオノツガザクラ:黄緑色のベル形の花
チングルマ:白い花弁と中央部に黄色いおしべを持った花